透析患者さんの水分制限・塩分制限の重要性と調理のポイント

透析患者さんの水分制限・塩分制限の重要性と調理のポイント

監修者

森 美樹(管理栄養士)

茨城県で生まれ、子供のころから母の手前味噌で育ちました。管理栄養士としては、病院・ 特養で栄養管理に従事。40 代になり、麹の美しさに惚れ込み、お味噌の魅力を知りました。 食事制限のある方もない方も、食卓を華やかに心豊かになっていただけるよう、発酵食品を 取り入れた食習慣のすばらしさを提案していきたいです。

透析で必要な水分制限とは?

慢性腎不全などが進行して透析が始まると、新たに水分制限が設けられます。

透析患者は、体の中の余分な水分を体外へ排泄することができません。

体内に余分な水分がたまっていると、腎臓やその他の器官に負担をかけてしまいます。

そのため、透析患者は摂取水分量の管理が必要不可欠となるのです。

ドライウェイトとは

透析では余分な水分を体の外へ出すため、水の分だけ体重が減少しますが、除去する水分が多過ぎても少な過ぎてもよい状態とは言えません。

より適正な透析を行うために設定される、体に余分な水分がない状態の体重の目標値がドライウェイトです。

透析中の過度の血圧低下が起こらず、体のむくみがなく、体への負担が最小限におさえられている状態なので、透析終了後にドライウェイトになっていることが理想です。

ドライウェイト下の水分管理

透析中の栄養摂取基準を定めたガイドラインには、血液透析患者の水分摂取は「できるだけ少なく」と記されています。

ドライウェイトを基準にしてより具体的に、次の透析まで中1日の場合はドライウェイトの3%以内の増加、中2日の場合は5%以内の増加におさえる、という目安を設けることもできます。

水分管理の重要性

人は意識をしなければ、食事や飲水でたくさんの水を取り込んでしまうので、体内の水分はすぐに過剰になってしまいます。

体に水分がたまり過ぎて引き起こされるのが、むくみや高血圧、肺水腫です。

体内の水分が多過ぎると透析1回あたりの除水量も多くなるので、透析中に血圧が低下して気分が悪くなるなど、体に負担をかけてしまいます。

摂取水分を管理することは、健やかな透析生活を続けるためには必要不可欠です。

水分・塩分制限のポイント

水分摂取を制限するポイントは2つあります。

1つは水分そのものの摂取をおさえること、もう1つは塩分の摂取をおさえることです。

塩分を多く摂取すると、のどが渇くので水を飲みたくなります。

そのため、塩分の摂取量を制限することでも、摂取水分量をおさえることができます。

水分の摂取を抑える注意点

  • 煮物・果物・豆腐など、水分の多い食品や料理を摂り過ぎない
  • 1日に飲む水分量を決めて、飲水を管理する
  • 冷たい飲み物よりも、少量で満足できる温かい飲み物を飲む

ご飯は炊飯時に水を必要とするので、水分を比較的多く含む食品です。

1日のうち1食分の主食をパンや餅にすると、水分の摂取量が少なくなります。

また、うがいを1回すると約10ml飲水したこととみなされるので、注意が必要です。

水の飲み過ぎを防ぐために、のどが渇いたときに氷をなめるという方法もあります。

塩分の摂取を抑える注意点

  • 醤油やソースなどは食べ物に直接かけず、小皿にとって食材をつけて食べる
  • ウインナー・かまぼこ・漬物などの加工品は避ける
  • 汁物や麺類は控え、麺類を食べる場合汁は飲まない
  • 外食は控えて、食べる場合には単品メニューよりも定食を選ぶ

外食は生活の楽しみのひとつですが、塩分が過剰に含まれるメニューが多くあります。

できるだけ栄養バランスがよい定食メニューを選び、汁物は具だけ食べて汁を残す、漬物やウインナーなどの加工食品は食べないなど、食べ方を工夫するようにしましょう。

調理時の工夫

家庭での調理時も、使用する塩分が少なくなるように心掛けてください。

調理時に塩分を控えるには、以下のような工夫ができます。

  • 調味料を計量スプーンで計る
  • すだちやかぼすなど、お酢の酸味、からしやスパイスなどの香辛料、比較的濃いだし汁を活用する
  • 薄味でもおいしく食べられる、新鮮な食材や旬の食材を使う
  • 減塩調味料や減塩食品を活用する

計量スプーンを使って、料理に含まれる塩分量を知ることは大切です。

塩味を必要以上に強くしなくても、酸味や辛味、香りを強くすることで料理の味わいにメリハリがつけられます。

減塩調味料などを活用することも、無理なく塩分制限を続けるコツです。

醤油・みりん・ソース・ケチャップなどの調味料、こんにゃく・豆腐・ゼリー・果物などの食材にも、水分が多く含まれているので注意してください。

透析食に活用できる調味料は味噌がおすすめ

透析食では摂取できる水分量・塩分量に制限があり、大変と感じる人も多いでしょう。

そこでおすすめしたいのが、味噌を使った料理です。

ここからは透析食に味噌を使うメリットや、おすすめの使い方を紹介します。

味噌がおすすめの理由

味噌には、塩分が多く含まれるというイメージを持っている人も多いでしょう。

たしかに味噌には塩分が含まれますが、使い方を工夫することで効率よく減塩することが可能です。

味噌汁の塩分量は高くない

味噌を使う料理といえば、味噌汁が代表的です。

味噌汁は、昆布やかつお節などからとっただしに味噌を溶いて作ります。

このだしにはうま味がたっぷりつまっているので、味噌を控えめにしても十分満足感のある汁物に仕上げることができます。

だしをしっかりとることで、うま味の強さで塩味の薄さが気になりません。

発酵食品である味噌自体にも、発酵過程で作られた独自のうま味が含まれています。

だしのうま味と味噌のうま味を合わせた相乗効果も生じるため、味噌汁はおいしく感じられるのです。

味噌汁と他の汁物の塩分量の差

では、味噌汁の塩分量をほかの汁物と比較してみましょう。

だしをしっかりとった味噌汁の場合、味噌汁1杯分の味噌の量は小さじ2、塩分量は約1.5gとなります。

ところがコンソメスープ1杯の塩分量は約2.3g、わかめスープでは1杯約3.4gにもなります。

このように味噌汁に含まれる塩分は実はあまり高くありません。

味噌の使い方のコツ

味噌は、汁物以外の料理にも活用できる万能調味料です。

さばの味噌煮といった煮物や、なすの味噌炒めのような炒め物にも使うことができるので、毎日の食事の調味料として活躍します。

味噌を煮物や炒め物に使う場合、しょうがやにんにくなどの香りが強い食材を一緒に使うのがおすすめです。

しょうがやにんにくが味わいを補ってくれるので、味噌の豊かな風味を活かしつつ、最小限の使用量におさえることができます。

ポン酢など酸味があるものと合わせて炒め物の味付けや、牛乳と一緒に煮込み料理に使うのもよいでしょう。

さらに片栗粉などでとろみを付けると、舌に長くとどまって味を感じやすくなります。

発酵食品である味噌は独特のうま味や香りを持っており、味噌を料理に取り入れることで、毎日の食事をより満足度の高いものにすることが可能です。

まとめ

透析中は、食事制限がつらいと感じる人が多くいます。

中でも水分制限は、それまでまったく気にせず生活していた分、大変に思うでしょう。

食事は生活の楽しみのひとつであるはずですが、制限があると料理や味付けのバリエーションが少なくなり、食事に飽きてしまうこともあります。

しかし今回紹介した水分制限・塩分制限のポイントを理解し、注意すべき点をおさえれば、料理のバリエーションを増やして食事を楽しむことは可能です。

透析中でもおいしくて満足できる料理を楽しむために、味噌を使うことをおすすめします。

味噌は調理の工夫次第で塩分をおさえつつ、発酵食品独自の奥深い風味で、豊かな味わいの料理に仕上げることができます。

味噌をうまく料理に活用して、透析の水分制限・塩分制限を守りつつ、毎日の食事を豊かなものにしてください。

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