透析食の基準とは?透析導入後の食事管理について徹底解説

透析食の基準とは?透析導入後の食事管理について徹底解説

監修者

森 美樹(管理栄養士)

茨城県で生まれ、子供のころから母の手前味噌で育ちました。管理栄養士としては、病院・ 特養で栄養管理に従事。40 代になり、麹の美しさに惚れ込み、お味噌の魅力を知りました。 食事制限のある方もない方も、食卓を華やかに心豊かになっていただけるよう、発酵食品を 取り入れた食習慣のすばらしさを提案していきたいです。

透析の際の食生活とは?

腎臓病食で様々な食事制限を経験してきた人は、透析食になると制限がもっと厳しくなると思うかもしれません。

透析によって腎臓の機能が補われるので、一部の制限は緩和されますが、体の状態を維持していくために食事療法は引き続き必要です。

食事は生活の楽しみでもあるので、透析食のポイントを理解して、なるべくストレスの少ない透析生活を送りましょう。

透析食の基本的なポイント

透析患者の食事療法ガイドラインに記載されている、透析食の基本的なポイントは以下の5つです。

  • 適正なタンパク質を摂る
  • 水分摂取量を守る
  • 食塩を摂り過ぎない
  • カリウムを摂り過ぎない
  • リンを摂り過ぎない

透析を開始するきっかけになった腎臓病の種類に関係なく、透析食のポイントは同じです。

さらにこれらのポイントを意識しながら、バランスのよい食事を取ることも心掛けましょう。

好きなものだけ食べるなど、偏食をせず、1回の食事ごとに主食・主菜・副菜がそろうように意識した食事を規則正しく取るようにすることで、栄養バランスも調いやすくなります。

適正な栄養を取ろう

透析患者の1日の適正なエネルギーの摂取基準値は、標準体重1kgあたり30〜35kcalです。

透析食ではタンパク質を摂り過ぎてはいけない、と意識してタンパク質の摂取量が少な過ぎてしまうと、エネルギー不足に陥ることがあります。

これは脂質や糖質などの栄養素だけでなく、タンパク質からもエネルギーが作られているためです。

食事として摂取するエネルギーが不足すると、体に蓄えられた脂肪やタンパク質がエネルギーとして使われます。

エネルギーとして使うために体のタンパク質が分解されると、老廃物である毒素やリンが発生してしまい、タンパク質制限をしている意味がなくなってしまいます。

料理に砂糖や油を多く使う、間食でエネルギーを補うなど、エネルギーが不足しないようにも意識しましょう。

 

関連ブログ:透析の原因や透析にならないための対処法を徹底解説

 

 

 

適正なタンパク質を取ろう

透析患者の1日のタンパク質の摂取基準値は、標準体重1kgあたり0.9〜1.2gです。

タンパク質については腎臓病食よりも制限が緩和されますが、基準値を守るように引き続き意識していくことが必要です。

タンパク質は体内で分解されると、老廃物が残ります。

健康な人であれば体外へ排出される老廃物ですが、透析患者は腎臓のはたらきが低下しているため、うまく処理することができません。

その結果、体内に老廃物が蓄積され、無理に老廃物を処理しようとした腎臓にも負担をかけて、腎臓の機能がさらに低下してしまいます。

タンパク質が過剰になったときに、同時に注意すべきなのがリンの過剰摂取です。

タンパク質を多く含む食品にはリンも多く含まれているため、タンパク質を適正量にすることは、リンの摂取制限にもつながります。

意識をせずに食事をしていると、摂取タンパク質は過剰になりがちです。

おいしい食事も、腎臓に負担をかける原因になってしまいます。

かといってタンパク質を控え過ぎると栄養バランスが崩れて、貧血や免疫力の低下、筋肉量・筋力の低下をまねきます。

肉・魚・卵・豆製品などの良質のタンパク質源を摂る、低タンパク食品を活用するなどして、タンパク質を適量摂取するように気をつけましょう。

水分摂取量を守ろう

腎臓病食のときには摂取制限がなかった水分ですが、透析食では制限が設けられます。

1日の水分摂取量の基準値は透析方法によって異なり、血液透析はできるだけ少なく、腹膜透析は{ 腹膜透析での除水量+尿量} g/日です。

腹膜透析では、腎臓の残っている力を使いながら時間をかけて透析を行います。

そのため体への負担が軽く、食事制限も血液透析より緩和されます。

体に水分がたまり過ぎると、肺の中の肺胞に水がたまって肺水腫になり、呼吸困難を引き起こします。

血液中の水分量の増加によって引き起こされるのが、むくみや高血圧です。

血圧が高くなると心臓への負担が増えて、心筋梗塞などの疾患にもつながるので注意が必要です。

また体内の水分が多過ぎると、透析1回あたりの水分の除去量が多くなり、透析中に血圧が下がって気分が悪くなるなど体に負担がかかります。

水分摂取量を控えるには、以下のような方法があります。

  • 煮物・果物・豆腐など、水分の多い食品や料理を摂り過ぎない
  • 1日に飲む水分量を決めて、不規則に飲み物を飲む習慣をつけない
  • 冷たい飲み物よりも、温かい飲み物を飲む
  • 塩分を摂り過ぎない

水分を摂り過ぎないように、自分が使うコップを決めて目盛りを付ける、何杯までと決めておくなど、飲水の管理が必要です。

冷たい飲み物はごくごくと飲みやすいので、つい飲み過ぎてしまいます。

少量でも満足感を得られる、熱めのお茶をゆっくり飲むことをおすすめします。

食塩の摂りすぎに注意しよう

食塩摂取量の基準値も透析方法によって異なり、血液透析では1日6g未満、腹膜透析では{ 腹膜透析での除水量(L) × 7.5 + 尿量(L) × 5} g/日となっています。

食塩を過剰に摂取するとのどが渇くので、水をたくさん飲んでしまいます。

その結果、水分摂取量が過剰になり、先述のような肺水腫や高血圧、心臓疾患、透析中の血圧の低下につながります。

水分摂取量を守るためには、食塩を摂り過ぎないことが必要です。

食事の減塩には、以下のような工夫が可能です。

  • 醤油などの調味料は直接かけずに、小皿にとって食べる
  • 柑橘類やお酢の酸味、スパイスなどの香辛料など味にメリハリがつくものを活用する
  • 麺類は汁まで飲み干さない
  • 新鮮な食材や旬の食材を使う

家庭で調理する際は、調味料を計量スプーンで計り、食事の塩分量を把握するようにしましょう。

減塩調味料や減塩食品を日常の食事に取り入れることが、減塩生活を負担なく続けるコツです。

外食は塩分が多くなりがちなので、注意が必要です。

麺類や丼物などの単品メニューよりも、比較的栄養バランスが取れている定食を選ぶようにしましょう。

カリウムの摂取量に注意しよう

透析患者の1日の適正なカリウムの摂取基準値は、血液透析では2,000mg以下、腹膜透析では基本的に制限なしとなっています。

透析液にカリウムが含まれていないため、腹膜透析ではカリウムの制限はありません。

カリウムはあらゆる食品に含まれていますが、透析患者は体外へ排泄することができないため、体にたまりやすくなります。

カリウムの役割は、心臓や筋肉の動きを調整することです。

そのため体内のカリウムが過剰になって高カリウム血症になると、手足・唇のしびれや胸が苦しいといった症状があらわれ、さらには不整脈や心不全を引き起こすこともあります。

カリウムの摂取量を減らすには、カリウムが多く含まれる食品を避けるほか、水にさらす、ゆでこぼすなど調理を工夫する方法もあります。

リンの摂取量に注意しよう

透析患者の1日の適正なリンの摂取基準値は、1日の適正なタンパク質量(g)×15mg以下です。

リンはタンパク質を含む食品に多く含まれていますが、リンの摂取量をおさえるためにタンパク質も少なくすることは避けましょう。

栄養バランスが崩れて、免疫力の低下や筋肉量・筋力の低下につながります。

リンは体内に存在する多くが、骨や歯を作る成分として使われています。

そのためリンを過剰摂取すると、皮下組織や血管に石灰の沈着が起こり、その結果引き起こされるのが動脈硬化です。

血管での石灰の沈着により血流が悪くなるので、透析に時間がかかるようになります。

血液中のリンが過剰になると副甲状腺ホルモンの分泌が増え、骨がもろくなり、骨折しやすくなってしまいます。

乳製品や魚卵、加工食品など、リンが多く含まれる食品を知って、できるだけ避けるようにしましょう。

まとめ

低下してしまった腎臓の機能は回復しないため、透析が始まると、患者は長く透析と付き合わなければなりません。

同時に、食事の管理が生活につきまとうことになります。

食事管理や制限と聞くとつらい、面倒臭いと思うかもしれません。

しかし透析食について正しく理解して習慣化することができれば、ほとんど負担を感じることなく生活を送ることが可能です。

今回紹介した透析食の基本的なポイントを理解し、実践の工夫を食生活に取り入れれば、腎臓の機能を落とさず、今の状態を長く維持していくことができるでしょう。

減塩や低タンパク質の食品や調味料、透析患者向けの食事宅配サービスも近年増えているので、そのような商品を上手に取り入れることが、無理なく食事管理を続けるコツです。

病院での食事指導なども活用して透析食への理解を深め、より充実し健やかな生活を送れるようにしましょう。

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