透析患者のカリウム制限の必要性や具体的な方法について解説

透析患者のカリウム制限の必要性や具体的な方法について解説

監修者

森 美樹(管理栄養士)

茨城県で生まれ、子供のころから母の手前味噌で育ちました。管理栄養士としては、病院・ 特養で栄養管理に従事。40 代になり、麹の美しさに惚れ込み、お味噌の魅力を知りました。 食事制限のある方もない方も、食卓を華やかに心豊かになっていただけるよう、発酵食品を 取り入れた食習慣のすばらしさを提案していきたいです。

透析患者の方とカリウムについて

血液中のカリウム濃度が高くなると、さまざまな問題が生じますが、特に透析を受けている患者さんにとって、カリウムの摂取過多については充分な注意が必要です。

まずは、腎臓とカリウムの関係性を理解しておきましょう。

腎臓とカリウムの関係

カリウムはミネラルの一種であり、人間の体に三つの大きな役割を果たしています。

一つ目は細胞内液の浸透圧を調整する働き、二つ目は筋肉の収縮や神経の興奮に関わる働き、三つ目はナトリウムを排出する働きです。

また、カリウムは、体内に存在するミネラルの中で、最も量が多いとされており、そのほとんどが体内の細胞内液の中にあります。

高カリウム血症

血液中のカリウム濃度の正常範囲は、3.5〜5.0mEq/Lです。

これが、5.5mEq/L以上になると、「高カリウム血症」となります。

このようなカリウム過多の状態が持続すると、悪心・嘔吐など、胃腸に症状が現れるほか、しびれや脱力感など、筋肉や神経に悪影響を及ぼすことがあります。

また、不整脈も生じやすくなります。

血液中のカリウム濃度が7〜8mEq/Lをオーバーすると、最悪の場合、心停止に至ることもあるので、特に注意しましょう。

もともと腎臓は、体に必要のないものを尿として排出します。

しかし、腎臓の機能が低下してしまうと、余分なカリウムを尿の中に排出し辛くなるので、血液中にカリウムがたまってしまい、高カリウム血症に陥りやすくなるのです。

低カリウム血症

逆に、血中のカリウム濃度が3.5mEq/L以下になった場合には、「低カリウム血症」となります。

カリウムは、通常の食事をとっていれば、まず不足することはありません。

しかし、夏場に大量の汗をかいたときに、カリウムが汗と一緒に排出されたり、嘔吐や下痢などが続き、カリウムが大量に排出されたりした場合に、低カリウム血症に陥りやすくなります。

カリウム過少の状態が持続すると、消化器官や筋肉、神経に悪影響を及ぼします。

たとえば、筋力の著しい低下、悪心・嘔吐・便秘など胃腸症状などが主な低カリウム血症の症状ですが、悪化すると、自律神経に異常を来たしたり、呼吸筋に麻痺を引き起こしたりするので、こちらも非常に危険です。

透析患者の方のカリウム制限が必要な理由

腎機能が著しく低下し、透析を受けている患者さんは、尿の量が少なく、カリウムを排泄するのが非常に難しくなることは、先にも述べました。

つまり、透析患者の方は、血液中のカリウム濃度が高くなりやすい傾向にあります。

透析患者の方が高カリウム血症にならないようにするためには、普通の人よりもカリウム摂取のコントロールについて、気を配らなければなりません。

カリウムの1日の基準摂取量

まずは、カリウムの1日あたりの摂取基準を理解しておきましょう。

通常、1日あたりのカリウムの摂取基準は、成人男性なら2,000mg、成人女性なら1,600mgとされています。

しかし、透析療法を受けている場合には、その基準はあてはまりません。

腎臓の働きが通常の10%以下に低下すると、透析療法が必要となります。

先にも述べたように、カリウム自体は人間の体に必要なものですが、腎機能が低下すると、余分なカリウムがうまく排泄されず、体内にどんどん蓄積され、高カリウム血症を引き起こしてしまいます。

腎機能の低下が見られる場合には、カリウム過多の状態は非常に危険なので、透析患者の方は、1日のカリウム摂取量を1500mg以下に制限する必要があります。

カリウム摂取量を減らす方法

それでは、実際にカリウムの摂取量はどのようにすれば減らすことができるのでしょうか。

ここからは、カリウムの摂取量を減らすための具体的な方法についてご紹介します。

タンパク質の摂取を制限

まず一つ目に大切なことは、カリウムを多く含むタンパク質の摂取を制限することが挙げられます。

食品に含まれるタンパク質量とカリウム量は比例するからです。

タンパク質を多く含む食品といえば、肉や魚介、卵、大豆製品や、乳製品など、日常の生活に欠かすことのできない食品ばかりです。

たとえば、肉類で考えると、生ハム100gあたりのカリウム含有量は470mg。

魚介類では、さわらや、かんぱちが490mg。

納豆にいたっては、たった1パックで700mgものカリウムが含まれています。

実際に、透析患者の方が口にしてよい食品の量を具体的に挙げてみましょう。

肉類や魚介類は、1回の食事につき、50g~70gにおさえてください。

納豆などの大豆製品も1回の食事あたり、50g~70g程度が推奨されます。

乳製品は1日あたり、100gまでを目安にしましょう。

また、タンパク質を多く含む食品以外で注意したいのが、切り干し大根やドライフルーツ、乾燥ワカメなどの乾燥食品です。

これらの食品は、水分が抜けている分、カリウムの濃度が非常に高くなっているので、過剰摂取しないように注意しましょう。

カリウムを減らす下処理をする

カリウムの摂取量を減らすには、他にも方法があります。

それは、下処理です。

カリウムは、水に溶けやすいという性質があります。

この性質をうまく利用して、食材の下処理をすることがポイントです。

おすすめの下処理、一つ目の方法は下茹でです。

ただ、この場合、カリウムの性質上、茹で汁にカリウムが溶け出してしまっているため、水気をしっかり切るようにしてください。

二つ目の下処理として有効なのは、水にさらすことです。

下茹でする場合にも言えることですが、水に触れる面積をなるべく大きくするために、細かく切るようにしましょう。

この二つの方法で、カリウムを20%程度減らすことができます。

カリウムの少ない食品に置き換える

カリウムの多い食材を他の食材に置き換えることも、カリウム摂取の削減には大変有効です。

たとえば、カリウムの含有量が多いほうれん草や小松菜を使うときには、それらの量を減らし、その分をカリウム含有量の低いもやしで補うなどの工夫ができます。

また、生の果物は非常に多くのカリウムを含んでいますが、缶詰の果物ならシロップにカリウムが溶け出してしまうため、果物だけを食べるようにすれば、摂取するカリウムを大幅に減らすことができます。

牛乳や、果汁100%のジュース、野菜ジュースはカリウムを多く含むので控え、かわりに麦茶やウーロン茶などを飲むように心がけるとよいでしょう。

 

低カリウム志向の味噌汁レシピ

毎日の食卓に欠かせない味噌汁も、ちょっとした工夫で、低カリウム志向に仕上げることができます。

食材もご家庭にある、ごく一般的なものを使っているので、無理なく取り入れることができそうです。

 

材料(2人分)

    • 白菜の葉 60g(1~2枚)
    • 油揚げ 1/2枚
    • 水100ml
    • だし汁100ml
    • 味噌 大さじ1

※カリウム制限の他に水分制限がある方は 1日の水分量の調整が必要なため、必ず医師の指示を仰いでください

作り方

  1. 白菜を白い茎の部分は5mm幅、葉の部分は1cmほど、油揚げを5mm幅に細切りにします。
  2. 鍋で湯を沸かしに白菜の茎を入れ、2分茹でたら、葉と油揚げを入れ、茹でます。
  3. 10秒ほどたって、茹で上がったら、20分以上水に浸して冷ましておきます。
  4. 鍋にだし汁を入れ、火にかけ、沸騰したら、水気をしっかりと絞った具材を入れ、温めます
  5. 火を止め、味噌を溶き入れたら完成です。

定番の味噌汁ですが、野菜を下茹でし、さらに水に浸すことで、カリウムをしっかり除去できます。

カリウムの性質をうまく利用し、簡単でしかも美味しい低カリウムレシピを食卓に取り入れましょう。

まとめ

人間の健康な体作りに欠かせないカリウムですが、機能が著しく低下した腎臓にとっては、摂取に注意が必要です。

多少カリウムの値が高くなっても、自覚症状があまりないのが厄介な点です。

腎機能が低下した場合には、しっかりと血液検査をして、血中のカリウム濃度が高くなりすぎていないか、しっかりとチェックしましょう。

また、透析患者の方にとっては、毎日の食事でカリウム摂取が過多にならないようにコントロールしていくことが大切です。

私たちが何気なく食べている身近な食材の中には、カリウムを多く含むものがたくさんあるため、知らず知らずのうちにカリウムを過剰摂取してしまっていた、などということもあり得ます。

カリウム含有量の少ない食材を選ぶ、調理方法を工夫する……、正しくカリウムについて知っていれば、そんなに難しいことではありません。

腎臓に負担をかけないためにも、血中のカリウム濃度を適切な状態に保つように心がけましょう。

 

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