森 美樹(管理栄養士)
茨城県で生まれ、子供のころから母の手前味噌で育ちました。管理栄養士としては、病院・ 特養で栄養管理に従事。40 代になり、麹の美しさに惚れ込み、お味噌の魅力を知りました。 食事制限のある方もない方も、食卓を華やかに心豊かになっていただけるよう、発酵食品を 取り入れた食習慣のすばらしさを提案していきたいです。
人間の体内を正常に保つために、非常に大切な役割を果たしている臓器、腎臓。
この腎臓が正常に働けるようにするために、食生活を整えることは、とても大切なことです。
一般的に、塩分の摂り過ぎは万病のもととされていますが、腎臓の健康においても、減塩を心がけることは非常に大切です。
では、腎臓を健康に保つためには、減塩を含め、どのような食生活を心がければよいのでしょうか。
腎臓病のための食事療法
腎臓病患者の方の食事を考える上で、下記4つの摂取量をコントロールしていくことが重要と言われています。
塩分、カリウム・リン、たんぱく質、水分それぞれの摂取量を調整しなければならない理由について解説していきます。
塩分の調整
腎臓の働きの一つに、摂り過ぎた塩分を尿と一緒に排出するという機能があります。
腎臓には血管が多いので、塩分を過剰に摂取すると血圧を上昇させ、腎臓に負担がかかります。
日々摂取する塩分量を意識することで血圧も下がりますし、薬の効果を高めることも可能ですので、 まず第一に塩分量を減らす「減塩」に取り組み上手に塩分量をコントロールしていきましょう。
1日当たりの食塩摂取目安量
国が定めている一日あたりの食塩摂取目安量は、健康な成人の場合、男性では7.5g、女性では6.5gとなっています。
ただし、これはあくまで理想の数値。
実際には、日本人の一日当たりの食塩摂取平均量は、10グラム程度と言われています。
腎臓の機能低下が見られる場合には、一日あたりの食塩摂取量を6g以下とするのが理想。
日本人の一日当たりの食塩摂取平均量の約半分を目指すと良いでしょう。
カリウム・リンの調整
日常の食事に含まれる、カリウムやリンが腎臓に負担をかけることもあります。
カリウムが増えるとどうなる?
カリウムが増えると、引き起こされるのが「高カリウム血症」。
手足のしびれや、不整脈の原因となることもあるので、注意が必要です。
カリウムが多く含まれる食品として果物では、バナナ・キウイなど、野菜では、イモ類・白菜・キャベツなどが挙げられます。
リンが増えるとどうなる?
リンが増えると、「高リン血症」が引き起こされますが、これは、骨粗しょう症の原因にもなります。
リンを多く含む食品は、魚・肉・卵・乳製品など。
また、インスタント食品やスナック菓子には、リン酸塩が含まれていることもあるので、注意が必要です。
ただし、カリウムやリンを含む食材は、健康な体作りには欠かせない栄養素も含んでいますので、全く摂取しないというわけではなく、腎機能の数値を見ながら、上手に摂取をコントロールしていく必要があります。
タンパク質の調整
腎臓に負担をかけないためには、タンパク質を調整することも必要です。タンパク質は、体内に吸収された後、BUN(尿素窒素)となりますが、これが腎臓に負担をかけます。
つまり、腎臓の機能低下がみられる場合には、タンパク質摂取の制限が求められるのです。
しかし、タンパク質を制限し過ぎると、今度はカロリー摂取が難しくなります。
体に必要なエネルギーを補うためには、筋肉の分解が行われるのですが、それが逆に腎臓に負担をかけることも。
自己流でのタンパク質制限は危険を伴いますので、主治医や管理栄養士の適切な指導の下で行うことが大切です。
水分の調整
腎臓の働きには、体内の水分量を調節するというものがありますが、この働きをうまくコントロールするためには、摂取する水分自体を調整しなくてはなりません。
この水分調整は、腎臓の状況によって内容が異なります。
尿の排泄機能が低下している場合には、老廃物を排泄するため、水分を多く摂取しなければなりません。
逆に、尿量の低下により、水分が排泄し辛い場合には、摂取する水分を制限する必要があります。
腎臓の状況により、適切に水分調整を行いましょう。
腎臓の負担を軽くする食事
様々な食事療法を見てきましたが、やはり日常的に行いやすいのが、塩分量を調整する「減塩」です。
本記事では、減塩に取り組む方々のためのレシピのポイントをご紹介します。
減塩レシピのポイント
鰹節や昆布などの出汁をきかせる
日本人が昔から親しんできた鰹節・昆布などでとる出汁は、うま味が濃く、それ自体が調味料の代わりになります。
また、干しシイタケやトマトなど、うま味の強い食材を進んで使うのもおすすめです。
香味野菜やハーブ、香辛料を使って風味を出す
にんにくやしょうが、ねぎといった香味野菜をうまく使って風味を出せば、食材の美味しさを引き出すことができるので、塩味の薄さが気にならなくなります。
パセリやローズマリー、バジルといったハーブ類を使えば、風味がアップするだけでなく、見た目もおしゃれに仕上がるので、上手に取り入れていきましょう。
カレー粉やこしょうなど、香辛料をうまく利用して、手軽に風味をアップさせるのもおすすめです。
酸味をきかせる
酢のものやピクルスなど、酸味を効かせた調理方法もおすすめです。
焼き魚やお肉にも酢を加えると、素材の美味しさが引き立ちます。
すだちや、かぼすなどの柑橘類も上手に活用しましょう。
減塩調味料を使用する
日常の調理に減塩調味料を取り入れてみましょう。
通常の調味料に比べて、もともと含まれる塩分が少ないので、安心して使うことができます。
通常の調味料より価格は少々お高めですが、減塩だけでなく、低リン、低カリウムタイプの調味料もありますので、いろいろと試して、好みに合うものを選びましょう。
具はシンプルにしてうまみをアップ
腎疾患や透析を受けられている方には、症状によって様々な制限があります。
その為、具だくさんにして様々なアレンジを加えるよりも、具なしまたはお麩、絹豆腐等シンプルにお味噌と「森でみつけたカツオの粉(こ)」ひとつまみで召し上がっていただけるとシンプルでうまみのあるお味噌汁を味わうことができます。
詳細な食事制限は医師と相談の上で、追加可能な食材があれば一緒に楽しみましょう。
まとめ
私たちが健康に生活するためには、どんな臓器も大切ですが、「肝心(腎)要」という言葉があるように、腎臓は非常に大切な臓器です。
腎臓の機能が低下することにより、老廃物がうまく排出できなくなるほか、体に必要なタンパク質まで排出してしまうなど、体にさまざまな悪影響が出てきます。
たとえば、手足にむくみが出る、疲労感が増す、貧血が起こりやすくなるなど、症状はさまざまですが、末期症状になるまで自覚症状が出にくいのが腎臓の厄介なところでもあります。
腎機能の低下は、初期の段階なら食事療法や投薬で改善することができます。
食事療法の中でも、日常の食生活を大きく変えることなく取り組むことができるのが、減塩の良いところです。
しかし、闇雲に食塩を減らしても、毎回の食事が美味しく感じられなければ、結局は長続きしません。
出汁をきかせる、香味野菜や香辛料で風味をアップさせる、酸味をきかせるなど、さまざまな工夫で、楽しく、そして美味しく減塩し、腎臓の負担を和らげましょう。